今夏の甲子園大会で、107年ぶりの優勝を成し遂げた慶応。笑顔が印象的な「エンジョイ・ベースボール」は新しい風を吹かせたが、実は「笑顔を作っていた時があった」という。「KEIO日本一」の軌跡をキーマン2人とたどった。(原晟也)
今月中旬、記者は数カ月ぶりに横浜市港北区日吉の慶応高校を訪れた。向かった先は、グラウンドではなく校舎の一室。部屋に入ると学ラン姿の2人が、お辞儀をしてあいさつしてくれた。主将を務めた大村昊澄(そらと)さん(3年)と、リードオフマンとして活躍した丸田湊斗さん(3年)だ。かばんに教材をしまいながら、「明日の課題をこの後やらないと」と話す丸田さんに、時の流れを感じた。
慶応を追いかけた1年だった。
選抜大会出場が決まった1月27日。大村さんは報道陣に繰り返し「高校野球の常識を覆す」と語っていた。自分たちで考え、試行錯誤して成長し、より高いレベルで野球を楽しむ。上意下達のイメージがある高校野球に、多様性を示すと意気込んでいた。
ただ、あの頃はまだ言葉が先行していた印象があった。選抜大会初戦、相手は昨夏の王者・仙台育英。九回に同点に追いついたが、1点差で敗れた。短かった春。大村さんは「裏づけられた自信がなく、笑顔を作っていた。心の底から楽しみ、笑顔が湧き出るように練習をしなければと思いました」と振り返る。
全国レベルの投手の実力を知り、夏に向け、バットを振り込み、1点を奪取する練習に打ち込んだ。
「常識を覆す」という言葉は次第に減っていった。代わって「KEIO日本一」という言葉を聞くようになった。「結果が伴わないと意味がない」との思いからだったという。
「最も楽しかった」あの打席
甲子園入りした8月2日から…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル